隠れた二人称単数代名詞Vosとは?
Vosという二人称代名詞があることをご存知ですか?「あなた」や「君」を指す二人称代名詞といえばtúやustedですがvosという方言的な言い方もあり、地域によって使われる頻度、動詞の活用やその発音も違ってくる興味深い言葉vosについて今回は触れていきたいと思います。
Vosの話をする前に、私自身、vosという言葉を初めて聞いたときは真っ先にvosotrosを想像しました、もちろんvosotrosの最初の三文字がvosで”vosotros”という言葉が長いから怠けてvosといっているのだと。理由はともかく、実のところ、vosとvosotrosは深く関係していました。
現在vosは砕けた言い方として使われていますが、昔は今のvosotrosのように二人称複数や丁寧な二人称単数の意味を持っていました。そもそも、”vosotros”とは”vos”(あなた)に紛らわしさをなくすためにに”otros”(他のもの)をつなげてできたものなのです。このように、実はvosのほうが先に存在していてvosotrosはvosという言葉にもとづいて作られたということになります。
もともとvosはラテン語で「あなた達」という複数形の意味で使われていて、途中で複数から「あなた」の丁寧な言い方に変わったことがわかります。このことに関する説はいくつかありますが、ここで紹介するものは、4世紀頃に皇帝が二人いた際、複数なのでvosが皇帝たちに使われ、そのままその後の一人の皇帝にも続けて使われたということです。
Vosは多くの南アメリカ、中央アメリカの国々で使われているので、国ごとの用途とそれぞれの違いを見ていきましょう。
まず大まかに分けて四種類のvosがあり国によって違う種類のものが使われます。
現在形 | AR動詞 | ER動詞 | IR動詞 |
Voseoタイプ1 | -áis | -éis | -ís |
Voseoタイプ2 | -áis | -ís | -ís |
Voseoタイプ3 | -ás | -és | -ís |
Voseoタイプ4 | -ás | -és | -és |
※Voseoとは、vosを二人称代名詞として使うことという意味です。
Voseoタイプ1 (ベネズエラ北東部、コロンビア北東部、ボリビア北西部、パナマ中部、キューバ北東部)
ベネズエラの北東の地域ではタイプ1のvosが使われていて、北東に行くほどよく使われています。ベネズエラの場合は、最後のsがhのように発音されたり、全く発音されなかったりします。
コロンビアの北東部ではvosが一般的に使われる場所があります。南部にも使うところがありますが用途としては話し相手を見下して話すときにしか使われません。カリブ海に面した地域ではtúがよく使われ、それ以外の場所ではustedが一般的によく使われています。
ボリビアでは地域によって使われ方が異なります。ボリビア西部のほうではタイプ1のvosが使われていて、túとvosどちらも使われています。文章の場合はtúが使われています。
パナマのコスタリカに近い地域と中部でもタイプ1のvosが使われています。しかし、人称代名詞(vos/tú)を変えることがあるのが特徴です。
キューバの東部でもほかの中央アメリカの国々と同じようにvosが使われています。しかし、違いとしてスペインで使われているvuestroやosも使われています。
現在形 | AR動詞 | ER動詞 | IR動詞 |
Voseoタイプ1 | Vos trabajáis | Vos coméis | Vos vivís |
Voseoタイプ2 (エクアドル中部/北部、ペルー北部/南部、チリ、アルゼンチン北東部、ボリビア南東部)
首都以外のエクアドルの中部と北部でもvosは話されていますが、動詞はtúのように活用されます。(vos eres, vos tienes)ほかの場所ではtúが一般的に使われています。
ペルーの北部でのvosの特徴として、エクアドルのようにtúの活用動詞を使うところです。南部ではチリのvosのようにタイプ2のvosが用いられます。
チリではタイプ2のvosが使われますが、基本的にar動詞の場合はsが発音されることはなく、書かれることもありません。(Vos/tú pensái, vos/tú trabajái)
ボリビア南部では西部と同じように文章であればtúを用いて、話すときにタイプ2か3のvosも使われることがあります。しかし、正式にはtúが公式な人称代名詞となっています。
現在形 | AR動詞 | ER動詞 | IR動詞 |
Voseoタイプ2 | Tú trabajáis | Tú comís | Tú vivís |
Voseoタイプ3 (メキシコ南東部、パナマ以外の中央アメリカ、ベネズエラとコロンビアの山部、エクアドルの海岸部、ボリビアの東部、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ)
アルゼンチンとウルグアイとパラグアイでは、túが使われることがなく常にvosを使います。どんな人を指すときにも使えるので人の立場に関係なく使われています。
コスタリカではvosは家族や近い友達などに使われ、それ以外の親しくない友達や知らない人にはustedが使われます。Túが使われることは少なく、vosがtúの代わりに使われているといっても過言ではないでしょう。
ボリビア東部ではメディアなどでも使われており、西部よりも活発的なvosの使用がみられます。
エルサルバドルでは、túとvosどちらも使われ、vos, tú, ustedの順で丁寧度が増していきます。なので、vosは仲のいい友達や家族の間でしか使われません。
グアテマラではエルサルバドルのようにvosが一番砕けた言い方でその次にtú、そしてustedと続きます。グアテマラでは男性のほうがvosを使い女性のほうがtúをよく使います、なので男性がtúを用いることはあまりないようです。しかし、vosはかなり砕けた言い方のため、あまり知らない人と話すときはtúやustedを使うのが一般的です。
ホンジュラスではvosとtúどちらも使われており、上と同じようにvosが一番砕けた言い方になっています。男性の間でのtúの使用はグアテマラと同じようにあまりよく見られませんが、メディアではtúが一般的に使われています。
ニカラグアでも同じようにvosが一番砕けた言い方になっていて、正式にはtúが使われます。
次に紹介する国々では、基本的にvosは使われていないものの、その国の地域によって使われることがある国々です。
メキシコのチアパス州のようなメキシコの東部ではvosが一般的に話されています。しかし、その地域以外の人の印象は「低俗」や「教育がなされていない」などあまりいい印象はないようです。
現在形 | AR動詞 | ER動詞 | IR動詞 |
Voseoタイプ3 | Vos trabajás | Vos comés | Vos vivís |
Voseoタイプ4 (アルゼンチンの北部の都市サンティアゴ・デル・エステロ)
現在形 | AR動詞 | ER動詞 | IR動詞 |
Voseoタイプ4 | Vos trabajás | Vos comés | Vos vivés |
もしもどこかの国に行く予定があればvosを聞くことになるかもしれないので、その動詞の活用法や用法について聞いてみると面白いかもしれませんね。
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